純利益95%減、それでも黒字。日本製鉄の決算から「今日失効する関税」の話をします

利益がほぼ消えた会社の話
日本製鉄の2026年3月期決算、純利益は171億円でした。前の期から95%の減益です。売上は10兆円を超えて過去最高クラスなのに、利益はほぼ消えた。しかも会社自身は決算の直前まで「700億円の赤字」を見込んでいた(2025年11月に600億円、2026年2月に700億円へと赤字予想を広げていた)のに、蓋を開けたら黒字。数字だけ見ると、何が起きているのかよく分からない決算です。
このカラクリを追いかけていくと、実は今日・7月24日に起きる「関税の崖」の話につながります。今日はこの2つをセットで整理してみます。
95%減益のカラクリ
まず日本製鉄の方から。減益の主因は、買収したUSスチールの統合にかかった一過性の費用です。「事業再編損」は通期で約2,712億円(第3四半期までの累計で約2,490億円)にのぼり、主に上期に計上されました。売上が前期比15.7%増えたのもUSスチールが連結に加わったからで、要するに「会社は大きくなったが、その買収コストで今期の利益はほぼ飛んだ」という一年です。
直前まで700億円の赤字予想だったものが黒字に転じたのは、在庫の評価益が改善したため。つまり本業が急回復したわけではなく、会計上の要因が大きい。ちなみに有報期末の株価ベースでPERは175倍(EDINET、edinet-insight調べ)という異様な数字になっていますが、これは分母の利益が一過性費用で潰れているだけで、指標としてはほぼ意味を持ちません。むしろPBR0.54倍(同)という水準の方が、市場がこの会社をどう見ているかを表しています。
で、今日「関税の崖」が来ます
ここからが本題です。トランプ政権が2月に発動した「世界一律10%関税」は、通商法122条という150日間しか使えない時限的な権限に基づくものでした。その期限が、米東部時間の今日7月24日午前0時1分(日本時間で今日の午後1時1分)。議会が延長しない限り、法律上自動的に失効します。
じゃあ関税は下がるのか、というと、そう単純ではありません。政権は代替として通商法301条に基づく2つの調査を春から進めてきました。ひとつは「強制労働への取り締まりが不十分な国」を対象にしたもので、日本には12.5%の関税案が示されています。もうひとつは「鉄鋼・自動車・半導体などの過剰生産能力」を対象にしたもので、こちらの税率はまだ公表されていません。
一方でUSTR(米通商代表部)の代表は、日本との間で「関税は15%を上限とする」合意を尊重する意向を示していると報じられています。12.5%がそのまま上乗せされるのか、15%の枠内に収まるのか。強制労働トラックについては、USTRが米国時間7月23日に「最終措置」の発表を公表しましたが、この記事を書いている時点(7月24日早朝)で、日本にとっての最終的な税率と発効日の詳細はまだ確認できていません。今日は制度の切り替わりの瞬間だけが確定していて、細部が未確定という珍しい日です。
投資家として何を見るか
日本製鉄が面白いのは、この新関税に対して「守られる側」と「課される側」を同時に抱えている点です。USスチールという米国内の生産拠点を持ったことで、米国の鉄鋼保護策の恩恵を受けられる立場になった。一方で、日本からの対米輸出分には新しい301条関税がかかる。同じ会社の中で、関税がプラスにもマイナスにも効くわけです。
ここからは私の見立てですが、見るべきポイントは3つだと思っています。
- 新税率の発表(早ければ今日〜数日中)。12.5%がそのまま来るのか、15%上限内で調整されるのか
- 日本製鉄の次の決算。一過性費用が剥落した後の「素の収益力」と、会社側が示す「USスチールで1,000億円以上の利益貢献」という見通しの実現度
- 鉄鋼以外への波及。過剰生産能力トラックの対象には自動車と半導体も入っています。トヨタや半導体各社の決算で関税コストへの言及が出てくるか
来週は7月28-29日にFOMC、31日に日銀会合も控えています。関税の着地とあわせて、材料の多い一週間になりそうです。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。