関税で1兆3,800億円吹き飛んでも、売上高は過去最高。トヨタ決算のねじれを読み解きます

1兆3,800億円って、どれくらいの金額?
トヨタ自動車の2026年3月期決算に、こんな数字が出てきます。「米関税の影響額、1兆3,800億円」(出所: response.jp)。ちなみに2025年8月時点の予想では1兆4,000億円で、内訳は車両そのものへの関税で1兆円、部品会社への支援を含む部品分で4,000億円とされていました(出所: 日本経済新聞)。
1兆3,800億円というと、ちょっとした地方都市の年間予算くらいの規模です。それが1年間、関税だけで消えた計算になります。
普通に考えれば、これだけの打撃を受けたら業績はボロボロのはずです。ところが実際の決算を見ると、トヨタの売上高は50兆6,850億円。日本企業として初めて50兆円を超え、過去最高を更新しています(出所: EDINET、edinet-insight)。
「1兆3,800億円も関税で失ったのに、なんで売上は過去最高なの?」——このねじれを追いかけていくと、今週アメリカで起きた関税制度の切り替わりの話につながります。
そもそも何の関税なのか
今回の話の舞台は、アメリカの通商法301条という法律です。7月24日、日本時間の午後1時1分に、この法律に基づく新しい関税(「強制労働」関税と呼ばれるもの)が正式に発効しました。対象は60の国と地域で、アメリカの輸入の99.4%をカバーする広さです(出所: USTRファクトシート)。
税率は大きく分けて、上乗せ方式の10%(17カ国)と12.5%(38カ国)、そして既存関税込みの合計を上限とする別枠(EU・台湾は合計10%、日本・韓国・スイスは合計12.5%)があります。日本は38カ国の上乗せ組ではなく、この別枠です。ここまでは「日本も12.5%か」で終わりそうな話なのですが、実はもう少し複雑です。
日本には特別な扱いがあります。自動車や鉄鋼など、もともとかかっている関税を全部含めた「合計」が12.5%を超えないようにする、というキャップ(上限)方式が適用されるのです(出所: Nippon.com、時事通信)。これは日米間の既存の合意に基づく措置とみられます。
一方、中国やブラジルはそうではありません。新しい12.5%は、すでにある関税に「上乗せ」される方式だと報じられています(出所: Global Trade Alert)。同じ12.5%という数字でも、日本は「天井」、中国・ブラジルは「追加」。中身がまったく違うわけです。
トヨタの数字をもう少し丁寧に見る
さて、冒頭の「ねじれ」に戻ります。トヨタの2026年3月期を、EDINET(有価証券報告書のデータベース)の数字で確認すると、こうなっています。
- 売上高: 50兆6,850億円(前期比+5.5%、過去最高)
- 営業利益: 3兆7,662億円(前期比-21.5%)
- 純利益: 3兆8,481億円(前期比-19.2%)
売上は伸びているのに、利益はしっかり削られている。ここまでは「関税影響1兆3,800億円」という話とつじつまが合います。
でも、ちょっと計算してみると面白いことに気づきます。前期の営業利益は4兆7,956億円でしたから、今期との差は約1兆円です。会社が「関税で1兆3,800億円やられた」と言っているのに、実際の営業利益の落ち込みは1兆円にとどまっている。差の約3,500億円分、どこかで穴埋めができているはずなんです。
正直に言うと、この穴埋めの中身(円安による差益なのか、原価低減の努力なのか、販売台数が伸びた分なのか)は、今回の決算資料だけでは特定しきれませんでした。ただ、関税という向かい風を受けながらも、他の要因が一部を打ち消していたことは、数字の整合性から確かめられます。ここは私も「見立て」の域を出ないので、次の決算での答え合わせを待ちたいところです。
投資家として何を見るか
今回の話でいちばん大事なポイントは、「関税の日本向け着地は、思ったより悪くなかったかもしれない」ということです。少なくとも強制労働関税については、キャップ方式のおかげで、既存の関税がすでに高ければ追加負担がゼロになる可能性すらあります。
ただし、まだ終わっていない話があります。鉄鋼・自動車・半導体を対象にした、もうひとつ別の調査(「構造的過剰生産能力」という長い名前のトラックです)が進行中で、こちらの税率はまだ決まっていません。もしこちらが今回とは違う「上乗せ」方式で発動されたら、トヨタをはじめとする自動車業界の負担は、また積み上がる可能性があります。
私が見ているポイントは3つです。
- もうひとつの関税(構造的過剰生産能力301)の税率発表。まだ時期は未定です
- トヨタの次の四半期決算。新しい関税体制のもとで、実際のコストがどう出るか
- ホンダ・日産・マツダ・SUBARUなど他の自動車メーカー。それぞれ数千億円規模の関税影響が報じられていますが、個社ごとの内訳はこれから確認していく必要があります
「1兆3,800億円失っても過去最高売上」というねじれた決算は、関税という逆風の中でも踏ん張っている日本企業の今の姿を、数字でよく表していると思います。
本記事は情報提供目的であり、投資助言ではありません。